9月

昔、私の家で鯉と鳥が死んだ。鳥は兄が飼っていて、私は上の家のおばさんがヒマワリの種をくれたことしか覚えていない。鯉は私が小学2年生の時、墓参りの帰りに拾ってきてその数日後に死んだ。名前もなかった。私はすべてが恐ろしくて仕方がなく、恐ろしさを…

節目

私は蝶をピンで壁に留めました もう動けない 幸福もこのように この標本のように、生きれば 欲しいものや憧れているものを 本当の本当に諦められるまで なるべく思い出さないように 何度でも針を刺す わからない きこえない 言葉に代って 今はこれがわたしの…

太陽たっぷりの中で思いつく行動は、たいてい素直なんだと思う。こんな夏のような、人生にあんな一瞬があったということを、ふと思い出す。私の人生にはこんな一瞬があった。ゆるさないことが私の純粋だった。もっと優しくなって、ゆるそうとしたのは私の偽…

眼中

芥川の私小説のタイトルにも使われる言葉で、目を閉じると瞼の裏に自然と姿が浮かんでくる人、という意味。 その人を「眼中の人」たらしめるものは何だろうか。 それはこの世界のどこかにその人が生きている、もう生きていなくても確かに存在していた、それ…

手放す

いたわりである筈のものが、時には悪意よりもはるかに深く傷をえぐる。本当にやさしいのは誰か。救われたのは誰か。手放すものも、手放されるものも、手にするものも、されるものも、じぶんの淋しさのために悔しく、ひとの淋しさのために苦しい。私のくるし…

日曜日

「こころがくだける」というのは例え話だと思っていた 恨んでなんかいない うしろ姿を見送り泣いた覚えなんかない でもたぶん、あの時心はくだけていた たぶん、あれからずっと助けてって思ってた それでも助けを求めたのは一回だけだった あんなにももろい…

お墓参り

みんなのことがあまり好きではない ということがばれないように、丁寧に、親切に接している。 会ったことがなくても、知り合いではなくても、名乗らなくても、墓場には花を添えることが出来るらしい。 もっと簡単に、名乗らずに、花を一輪供えるぐらいの感覚…

たった数日間の想像妊娠を、医師はいつも誤診する。おめでとう。いつ頃ですか。それから、精神の悪阻が襲う。女は、そんなに、幸せになりたいのか。都合よく使った「さみしさ」の分だけ、虚しさの卵を宿した。みつからなかった顔を探す。ひどく光る太陽を見…

今思うこと

死にたいと書くことで死なないですむのなら、詩は薬よりも役に立つ。 本で探そうとしたのはまちがいだった。救われようとして、どこかの誰かが作った呪文を探したのはまちがいだった。私は私だけの呪文を作らなくてはいけない。 最近は特に。自分がつまらな…

ひとり

かつて踏みきったまま 未だ空中をさまよっている足が 虚ろに、けれど現に 角をまがった なにかとてもだいじなことを 思い出しかけていたのに 視界の左すみで 山茶花の花びらが 耐えきれないように 無惨な散り方をしたので こんな時 ここにいない人の肌を感じ…

教会

花はいつ死んだのだろう すでに切りとられ トゲまでむしられていたのに今更枯れた 血が出たら 血が出たら、救われたのに もう 腹立たしさや さびしさによって泣かない ないものねだりによって泣かない ひそやかに 控えめに 詫びながら それでも尚差し伸べら…

代価

答えのない問いの中に沈潜することがある。答えはわからない。ただ「どうして」という問いだけが残る。それでも私は信じている。これで、神様までいないなんて、それこそ許されない。神様はいる。きっといる。 画家のシャガールは、生涯を聖書とサーカスに大…

列車

悲しみを忘れるための旅だから 走っている時の方がまだよかった 停車する この静けさが堪らない 最初からなければ良かったものを 最初からありはしなかったものを 見つけて そして失うことのむなしさを もういちど思い知っただけだった 私の中は空っぽであり…

博愛

特別な一人の人間として選ばれたいわけではない。 浅瀬の海のような無責任で純粋に適当に好意を抱かれていたら良い。 子供のころは皆そうだったはず。 でも大人になると皆変わる。 「好き」という感情を、社会や関係性に発展させようとする発想が理解出来な…

細い首 青いマフラーが あの日誰かを空につりあげた 人が死んだのに 空があんなに美しくてよかったのだろうか 燃えていた 雲までが 炎あげて あんな大きな夕焼け みたことがなかった

赦し

わたしが ゆるされすぎてくるしい というと もっとゆるすから という もっとくるしむといい という

クリムト

希望する 係累を軽んじる むしろ一切を棄てる 平凡万能が不可ない 規定欲、千里同風が不可ない あの金の絵の具 ひと刷毛の夢 ついにほんものの 終りの瞬間 その中に全てがある 芸術上の諸形式を超えた 生命の叫びを歌う能力がある 殆んど全く容喙出来ない世界…

虚構

わたしがうそをつく時 まだ知らないほんとうのことを 知ってるような気になれた だって ほんとうのほんとうは 一瞬で過ぎ去ってしまう こんなに甘いのに 砂糖が入っていない しんどいな もうずっとしんどい 忘れがたい花 忘れがたない、花 果物は実りながら…

すべてと関わるために

みんなどこかに行ってしまう わたしはいつもここにいるのに 何かを共有しない限り 一緒にいることができないと 罪を分けても その罰さえも すでに重さも異なると そんなにわたしたちはひとりぼっちなのか こころなんて内臓でしかない 死んだ人間を すぐに燃…

実存

世界があるから あなたに会えなくても あなたがいないということにはならない 暖かさなどみじんも感じない 遠い火を見つめて満足できる つきつめれば全部 あなた自身の存在に比べれば ほんとうにどうだっていいことで だから何

からっぽ

私には、何にもない。 オリンピックを目指すほど、のめりこんだスポーツもないし、猛勉強をするような夢もないし、将来のことは考えていないし、そのために今を燃やし尽くそうなんて思うこともない。 世間が認めるような結果を出したこともないし、自分を焼…

誕生日

生きるたびに身軽になってゆく 重さを忘れてゆく 覚えているよ と告げることが すべてだったのに 忘れてしまったものでさえ 私を作ってゆく その喪失の中に 私がいる

欲しいもの

わたしが 欲しかったものを 手に入れた全ての人が すこしも美しくない そのことが なによりも わたしを傷つける

好きなひとが死んだあとの 大地はすこし甘い匂いがした そこにあったはずの 虫の死骸はいつの間にか無くなっていて 生き返ったのかな、と平然と思った 誰かを大切に思う気持ちに どれぐらいの意味があるんだろう わからない わかってもなんにもならない

わたしは子供の頃 小さな生きものが大概美しい気がしていた ちいさな生きものには 深い運命を担った使命があるにちがいない わたしはいつもそう思いながら 這うものを踏まないように きたない道を歩いた わたしはいまでも その心を失せきらないでいる 世間的…

みんな同じ

今日もわたしは探している まだ会ったこともないひと 顔だって見たこともない他人 会ったことのある人には会いたくない 初めて会うために人を探すのが そんなに変だろうか 人間は皆そんな探し方をしているのではないか そして人間はきっと誰かをひとりずつ …

くりかえし

花を見ようという あなたのこころと わたしのこころは違う それでもいっしょに見て いっしょに笑って ただみとれていれば良いんだと思う 探さなくていい信じさえすれば 古い傷口を満たすのは そこから滲み出る新しい血 内側から溢れ出るものに溺れ死ぬ 本心…

冬が明るくなりきると かえって何も思わなくなった 悲しいというこころにさえこだわらず あたりのものへ なだらかに自分のきもちをわたすことができる わたしは束の間の存在に過ぎないけれど それで差し支えない やっとの思いで すこしだけれど こんなふうに…

郷愁

かならず人に忘れられたいわたしだけど それなのにいつまでも ふるさとが懐かしまれてならない もはや帰るという言葉を諦めなければならない 何度も巡ってくるであろうと思ったゆきなれたはずの路 聞こえない言葉の反照 もしかしたらわたしは わたし自身の故…

夕暮れ

心残りも誇るところもみえない みずからを無みする、そのようす 意地でも自棄でもない 真正面からの捨て身 気持ちからこだわりがとけてゆく あそこに神さまがいると考えた むかしのひとはえらい それに道理の間違いがあったとしても あの力にひきつけられた …