手放す

 

いたわりである筈のものが、時には悪意よりもはるかに深く傷をえぐる。本当にやさしいのは誰か。救われたのは誰か。手放すものも、手放されるものも、手にするものも、されるものも、じぶんの淋しさのために悔しく、ひとの淋しさのために苦しい。私のくるしい手放し方が、まだ足りないというのなら、それならば、自分だけ服役してしまう共犯者は裏切者ではないのか。いつも命がけなのは、私ではない誰か。私は、こうしていつもたったひとりの上に握った手を差し出すことしかできない。いまこそ大きなやさしさになりたい。時にやさしさから遠くみえたとしても、どうかやりすごしてほしい。たとえ人を破滅に導こうとも感情は正しい。孵らない卵。孵らない心。私のなかで繰り返される何という不毛。何というおびただしい死。